
第107回:「児童養護施設にもっと支援の情報を」
2017年6月21日(火)午後7時から「児童養護施設の状況を知りたい」「阿部さんを応援したい!」と経営者、NPO代表、建築家、大学院生、大学生、団体職員、ビジネスパーソン、医師、映画監督、地域レポーター、市民メディアプロデューサーなど15名が集い、対話しました。(感謝!)
◆第107回:「児童養護施設にもっと支援の情報を~『選択肢』を届けることから」
☆ゲストスピーチ阿部 華奈絵さん(あべ・かなえ)さん
<「ゆでたまご〜社会的養護退所後ガイドブック作成委員会」代表>

6歳のときから、シングルマザーの母親の結婚相手から虐待を受けていました。
友達に家庭でのことを打ち明けたとき、「それおかしいよ」と言われるまで、虐待を受けているとは気づかず、自分はしつけを受けていて当たり前だと思っていました。中学3年から児童養護施設で生活するようになりました。
ここで良かったことは、自分の時間があること、勉強を教えてくれることでした。
不満だったことは、進学を反対されたこと、職員の入れ替わりが多く自分のことを知らないのに反対されたことでした。
18歳で出る決まりがあるので、自立して一人暮らしを始めました。
【一人暮らし】
ここで困ったのは、家を借りる際の保証人問題でした。「未成年なのになんで親が保証人になれないの?」と大家さんに受けてもらえず、物件探しは苦労しました。
高校卒業時に100万円貯めていましたが、家賃や家具の購入、リクルート代なのであっという間に40万円を使いました。
【就職】
施設退所後、高校に求人があった会社に就職しましたが、職場は残業代が出ず、24時間勤務も当たり前で、残業は月300時間を超えていました。1年目は大変というので世の中の人はこのくらい働いているのかと思っていました。身体を壊して1年で退職しました。
施設のアフターケアはありませんでした。
【独学】
自分の常識は常識ではないかもしれないと思い、実際に勉強会に顔を出すことで人とつながろうと思いました。
そこで、支援団体の存在を知りました。施設出身者にも進学している人がいることも知りました。退所後に後輩のためにも、施設経験者として発信したいと思うようになりました。
日本大学教授の井上仁先生も勉強会で出会ったお一人です。
【施設経験者として「発信したいこと】
① 施設への偏見について
「施設をつぶして里親を増やせ」という意見もありますが、里親がいいとか、施設が悪いとかはなく、大人が決めることではないと思います。
私のように施設での生活が向いている人もいるはずです。選択肢があることが大切です。
② 各機関との連携について
児童相談所、児童養護施設、支援団体同士のいがみ合いはやめてほしいです。「子に手を差し伸べる」という目標は同じはずなのに、なぜ、そんなことが起きてしまうのか。喧嘩しないで、協力し合ってほしいです。
③ 支援団体の情報が届かないこと
社会的養護に関するサポート団体が増えています。たとえば、一人暮らしに向けた家具の寄贈を行っている団体、高卒認定を無料で受けさせてくれる団体、施設退所して2年目の家賃更新料を軽減させてくれる団体があります。しかし、当事者には、この情報があまり行き届いていません。
【社会的養護退所後ガイドブック作成委員会「ゆでたまご」の活動】
人も卵も温かさに包まれて形になる。
施設・里親を巣立った子どもが、相談やサポートを必要とする時の相談先や支援先を知ることができるようにガイドブックを作成しています。また、居場所等、施設・里親後に集える場などの情報の提供を行います。
これらを提供することにより、施設・里親後の生活での離職や疾病など困難な事態に遭遇した時の手助けとなることを目指します。
井上教授の支援もあり、日本大学キャンパスで月1回施設出身者や施設の元職員、NPO スタッフ、IT企業の役員などいろいろなメンバーが集まり作成しています。
【児童養護施設出身の抱える問題点】
当事者の多くが支援団体を知らないことです。
児童養護施設を支援している団体は多く存在します。しかし、多くの当事者は、その支援団体の存在を知らないのです。施設によっては職員が目の前の子どもを見るのに精一杯で支援団体の情報が入ってこないところもあります。
私は、こういった状況への情報の橋渡しをすることで、孤立をなくすためにはどうすればよいか取り組んでいきます。ガイドブックは、年内には完成させ、各施設に配布する予定です。
より多くの人たちに、施設出身者を取り巻く実情を伝えていく機会をいただけたらと思っています。
◇人むすびカフェ ファシリテーター 角田 知行さん
今日のお題は、「今日のお話をきいて、どんなことが心に浮かびましたか?何を持ち帰ろうと思いますか?」 真剣な対話で盛り上がりました。
終了後のご感想を一部、紹介します。
・「当事者」が何を求めているのか、その気持ちに寄り添うことの大切さ
・施設内での情報の少なさは驚き情報が選択肢を決めることもある。
・情報格差で所得格差の再生産をしてはならない。
・ガイドブック作成を通じた「つながり」づくりである。
・ガイドブックをつくるなら会社や団体にも活用できるようなものをつくってはどうでしょうか。
・「心の家族」 すべての子どもに社会メンターをつけよう。
・阿部さんの話をもっと広く聞いてもらいたいと思ったので、何かみんなでしていきたいですね。 等


